・会話文ばかりで地の文がほとんど書けていない
・頭では場面を具体的に思い浮かべているが、文章化が難しい
・描写を意識すぎると地の文がダラダラと長くなってしまう
・地の文の描写が、小説というより説明文みたいになってしまう
などなど、描写における悩みは人によって様々にあると思います。
私が小説を書き始めた当初は、意識しないと場面に合った描写が書けませんでした。
小説冒頭や場面転換のときに、なんか良さそうな風景描写や季節が感じられるような描写をちょこっと入れて、なんか「書けた感」を出していた覚えがあります。
なんとなく雰囲気出るかな~としか考えておらず、描写に含まれる情報が該当するシーンとほとんど関係なくて、それっぽさだけ出してる自己満足描写だったんです……。
描写を入れることを意識したらしたで今度は地の文がやけに長くなってしまい、書いたものを読み返しながら「うん……場面は具体的にイメージできるけど、うん……この描写、必要だったか?」みたいな、味がしなくなったガムを延々と噛まされ続けているような虚無感を味わったり。
ちょうど良いボリューム、分かりやすい表現、必要な情報を描写に盛り込む文章センス。
これを意識しなくても手癖で書けるようになるまでには、書いて慣れていくのが一番です。
ただ、どうやったらコツが掴めるのか、自分に合った上達方法を探すのも一苦労ですよね。
私が一番手ごたえを感じた練習方法
私がやった練習法で一番手ごたえを感じたのは「目で見たものを文章で表現する」というものです。
1回の練習時間が短く、それほどストレスもなく、長く継続して実践できました。今でもふと思い立ったときにやっています。
具体的に
景色や背景の描写力を鍛えたいなと思ったときは、パソコンから顔を上げて目に映る情景をそのまま文章化することをよくやっていました。
例えば、窓から見える景色。
一読で自分が見たものを読者にもイメージしてもらえるような分かりやすい表現で、なおかつあまり長くなりすぎない文章で……と意識しながら書いてみたり。
場所を喫茶店や駅のホームに変えてみるのも良いでしょう。
慣れてくると、小説の地の文で情景描写をしたいときに、背景である情報のどこを切り取って描写するか、長くならずどう分かりやすく表現するか、といったことを深く意識しなくても書けるようになっていきます。
次に、動きのある描写力の鍛え方ですが、映像を文章で再現する練習をしていました。
具体的には、アニメやドラマのワンシーンを、見たまま文章で表現していきます。映像で見たものを文章化し、書いた文章を読み直して、さきほど見た映像を文字を通して頭の中で思い浮かべられるか確認する、といった方法です。
映像を参考にすることでリアルな人間の動きを表現できるのが、この練習法の特徴です。
戦闘シーンなど日常で目にしない動きでも、アクションシーンの映像を見ることで、かなり具体的に書けるようになります。
動きのある描写に慣れれば、次は少しハードルを上げて、いかに描写を削って不要な文章をカットしていくかに着目してみてください。
文章を削ってみて、なるべくコンパクトな表現で動きを伝えられるように練習していきます。
アニメの場合は絵の枚数が多いほど「ぬるぬるした動き」と言われるようなリアルさが表現できます。
ですが小説の場合は逆で、地の文が多すぎると、必要な情報かどうか判断できずに読者の脳のキャパを無駄にオーバーさせてしまう「読み疲れ」現象を引き起こしてしまいます。人によっては「だるい」と読むのをやめて途中離脱してしまうかもしれません。
読者に楽しんでもらう、あるいは感動してもらえる作品を書きたいという願望は、書き手ならば抱いてしまうもの――ですが、まずは「最後まで読んでもらえる作品」をひとつの目標としましょう。
世の中に多くの面白い作品が溢れかえるご時世で、最後まで読んでもらえるって、それだけでスゴイことですよ。
自分で書いた丁寧な描写を読み返して、無くても読者が伝わる箇所を見つけて削っていく。この練習によって、小説の地の文において「削るならどの箇所か」を自分で判断できる力が身につきます。
「あえて書かないで、読者に想像させる」といったような文章センスも磨けるので、本当に身になる練習方法です。
描写のコツ
上記項目で、読者を読み疲れさせない描写を目指すことをお伝えしました。
書きすぎず必要な情報を取捨選択する、というのが前提ですが、描写の仕方次第でも読者を飽きさせないコツがあります。
例文
描写のコツは「説明」っぽくならないこと。
読者に情報を伝えるためとはいえ、内容をそのまま書いてしまっては説明文と変わりません。
読者が読みたいのは「物語」です。
情報はストーリーに落とし込んで伝える――これを意識してみるだけで、グッと洗練された描写になります。
「花子」というキャラクターの人物描写を例に文章を書いてみます。
(良くない例)
花子はとにかくズボラな性格だった。
友達との待ち合わせに遅れることは当たり前で、部屋の片づけは年に数回行う程度だ。
(改善例)
枕の横で鳴り続ける電子音が30秒を過ぎたあたりで、花子はやっとスマートフォンに手を伸ばした。画面を適当に触っていれば音は止むだろうと、布団から手を伸ばして目を閉じたまま音のありかを指で辿る。
冷たい液晶画面に触れると音は鳴りやんだが、アラーム音だと思っていたそれは、実際は電話の着信音だったようで、電子音の停止直後に「アンタ、今どこにいるの!?」という友人の声が、まるでスピーカーにしているような大きさで花子に耳に届いた。
聞きなれた友人の声に寝ぼけた頭は一気に覚醒し、ベッドから飛び起きると、花子は慌ててスマートフォンを耳に当てた。
「ごめん! あと30分で行く!!」
花子の言葉に友人は察しがついたのか、大きな溜息の後で「寒いから先に喫茶店に入ってるね」と呆れ半分慣れ半分といった調子で応えると、通話の時間すら惜しいと思ったのか即座に切られてしまった。
花子はスウェットを脱いでベッドの上に放り投げる。
「あー……なに着て行こう。……適当にあったかそうな服着て、コート上から羽織ればいっか」
ベッドの上から足を下ろすと、床に置いたままの中国語のテキストの角が花子の足裏を刺激する。
「痛っ!! もう誰だよ、こんなところに置いたのは」
一人暮らしの部屋の中、花子は誰にぶつけるでもない文句を言いながら、テキストを足の爪先で離れた場所にスライドさせる。
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「良くない例」は、花子の性格を説明しただけの文章です。
「改善例」では、花子の実際の言動や部屋の状態を描写することで、キャラクターの性格を表現しています。
物語の展開を通してキャラクターを描写しているので、読者は頭の中で状況をイメージしながらキャラクター像を理解することができます。
「ズボラ」と書いて終わるのではなく、花子がどうズボラなのかを、実際の行動や状況を通して描写することで、キャラクターにも奥行きが出ます。
描写が説明っぽくなっていないかどうかという点は、描写を物語に落とし込む大事なコツです。
参考にして見てください。