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読者に刺さる作品を書くには、まず自分が刺さるものを把握する

創作よもやま話

読者が感動する、共感する、何度でも読み返してしまう、折に触れて作中のワンフレーズを思い出してしまう――そんな「刺さる」作品を書くにはどのような工夫がいるのでしょうか。

結論から述べると、万人に刺さる作品はありません。
誰かが絶賛する傍らで、誰かがつまらないと読むのをリタイアしてしまう。
賞を取った有名作品も、大量のWeb小説のなかでひっそりと掲載されているアマチュア作品も、誰かには刺さるし、誰かには刺さらない。

読者層を想定したとしても、作者が期待した通りに読んでくれるとは限らないものです。

でも書いたものが、誰かの心に深く届くと嬉しい。
そのような作品を書くにはどうすればいいのか。

ペルソナ(読者像)の設定

まず大前提として、書くことは自由です。
自分のためだけに、頭の中で考えていることを、心の内にあることを、書きとめる。
誰かに読んでもらい、共感してほしくて文章を書く。
目的によって、読み手を意識するしないはありますが、どんな場合でも書くことは自由であっていい。
私はそのように考えています。

ただ「誰かに読んでもらい、共感してほしい」という目的で書く場合は、読み手である「誰か」を具体的に絞って書いたほうが、より心に届きやすいという効果があります。

「セブンルール」というテレビ番組が、「ことば選び辞典」シリーズを生み出した編集者・田沢あかねさんを取材した内容が大変印象的で、その後の私が書くうえで大いに参考にさせていただいた点があります。

<セブンルール>言葉と向き合い続ける“大ヒット辞典”の編集者に密着 | WEBザテレビジョン
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ことばを紡ぐ全創作者たちに捧げる──「ことば選び辞典」ができるまで。
クリエイター・インサイド第2回「ことば選び辞典」シリーズ大ヒットの裏側

「ことば選び辞典」は万人にとって使いやすい辞典とは断言できません。
ただ「ある層」にとっては、とてつもなく使いやすく便利で、痒い所に手が届くベストアイテムなのです。
編集者の田沢さんは、この辞典を買う対象を「創作クラスタ」と限定し「創作クラスタ」に刺さる内容に特化して編集されたそうです。

上記インタビュー記事では「創作クラスタ」とまとめられていますが、テレビ放送ではターゲット像の設定がもっと詳細であることが語られていました。

どんな人が本屋でこの辞典を手に取るか。使おうとイメージできるか。
性別・年齢・平日の過ごし方・休日の過ごし方・趣味・オタク歴・どんなジャンルを通ってきたか……などなど。

田沢さんは、ご自身が設定した購買者(=ペルソナ)に的を絞り、辞典を作ったのです。

28歳、女性。中小企業の事務職。大学入学の際に上京し、東京の賃貸マンションで一人暮らし。男女交際の経験なし。実家は長野で、両親健在。姉が京都にいる。姉妹共にアニメ・漫画オタク。
平日は17時に退勤し、寝る前の2時間は創作活動をしている。土曜日は家事中心。日・祝は録り溜めしていたアニメやドラマを見たりゲームをしたり創作をしたりと、趣味を満喫している。
年に2~3冊、同人誌を出している。
中学生のときに姉の本棚にあった『テニスの王子様』を読んで、オタクに目覚める。中・高校生のときは自分の創作ネタをノートに書くだけだったが、大学に入って同人活動を始める。
コナンの映画がきっかけで俗に言う「安室の女」になり、コナンのジャンルで長く活動をしていた。現在は人気ソシャゲの二次創作小説を中心に活動をしている。
読者数は多くはないが、エモい小説を書くことで一度読むとファンになる層が多い。好きなものを好きなように書いていたが、他の書き手の作品のクオリティに触発され、最近は文章力を伸ばす努力もしている。

上記は田沢さんが書かれていたものそっくりそのままではありませんが、テレビで見た田沢さんのペルソナ設定の様子を記憶から引っ張り出して、こんな感じでかなり具体的だったな……と私が書き起こしたものになります。
実際、私も読者像を絞って書くときは、このくらい細かく想定して「この人が共感する書き方とは」と考えながら推敲することがあります。

これは出版物だけに限ったものではありません。
ネット上の記事や小説など読み手を意識した原稿では、読者層(ペルソナ)を想定して書くことが奨励されています。
多くの読者に読んでほしいからこそ、敢えて対象は狭く絞る。
万人受けを狙うと対象がぼんやりとして、かえって誰にも刺さらない味気ない作品になってしまう恐れがあるからです。

まずは、自分に刺さる作品を書く

とはいっても、ペルソナ設定は慣れないと難しいという人もいるでしょう。
また、人によっては「読者を意識して書く」という考えが頭の中を占めすぎて、自分が書きたい内容・表現したいものを見失ってしまうかもしれません。

そんなときは、まず読者像(他者)の存在をいったん忘れて「自分に刺さる」作品を書いてみてください。
他の誰でもない、自分が刺さる作品を書くことができれば、それを読んだ誰かのうち、自分と同じような感性の持ち主には刺さります。

しかし、いざ書こうとなると「私ってなにが刺さるんだろう」と分からないこともあるでしょう。

「自分に刺さるもの」を把握するための、日々の取り組み

おすすめの方法は、創作ノートを持っておくことです。
アナログでもPCのメモ機能やアプリでも、ツールはなんだってOK、自分が使いやすいものを選んでください。
私は、思いついたときにすぐ書けるように、アナログの手書きノートと、PCのメモ帳、スマートフォンのメモアプリの全部を使っています。

最初は、「プロット用」「ネタ用」「世界観用」と書きとめる内容別に細かく分けて用意していたのですが、あまりに形式張ってしまうと書くハードルが上がってしまって気楽に使いにくくなったので、雑多メモを複数持っているという形に落ち着いています。
このあたりは、ご自身の性格に合った使い方を選んでください。


日常であった、嬉しいことや悲しいことやストレスに感じたこと。
ドラマや小説に触れて、感動したこと。
このように心が動いたことを、なるべく具体的に書きとめていきます。
「こういうことがあったから」「こういうシーン、セリフを見て」⇒「私はこういう感情になった」というように、心が動かされた原因とどう動いたかを具体的に文章化して残しておくのです。

他人に共感されるかどうかは気にせず、自分の心が動いた瞬間にアンテナを張って記録してみてください。

こういった「感情ノート」があると、自分が小説を書くときにキャラクターの感情描写をどう表現するか、どういった場面で心の動きを書くかの参考になります。

「誰かに刺さる作品」の「誰か」が具体的にイメージできないときは、まずは「自分が刺さる作品」を目標に書いてみてはどうでしょう。



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