小説を書いていると、さまざまな悩みの壁にぶつかることがあります。
・プロットを作っても、書いているうちに全く違う話になって収拾がつかなくなった
・「起承転結」「序破急」「三幕構成」など、小説の構成を調べて書いてみたけど全然しっくりこない
・きちんと書こうとすればするほど、手が止まって執筆がはかどらない
・アイデアを考えているときが一番楽しく、執筆作業は途中で苦痛になるか飽きて中断してしまう
・ストーリーを考えたり膨らませたりすることが苦手、どこから手をつけたら良いのか分からない
こういった悩みを突き詰めると、自分の執筆スタイルもっとシンプルに言えば自分が楽な書き方がなにかということに気付けていない問題が根底にあります。
私自身が感じたことですが、基礎から教える系の小説講座や関連書籍では「プロットを作る」「構成を練ってから書く」という順序を基本としていることが多いようです。
SNSなどで、作家さんたちが「プロットできたから、やっと初稿だ!」といったようなことを書かれているのを見ると、「プロット→初稿→推敲の順番が基本スタイルなんだな」とインプットされてしまうかもしれません。
そこで自分もやってみたけれど、全然うまく書けないし、自分には小説を書くのは向いていないんじゃないか……と悩んでしまう。
小説の書き方を知れば知るほど、自分のやり方となんか違うし、これまで書いた作品も未熟に思えて恥ずかしくなってきた……と自信がなくなってしまう。
こういった壁にぶつかってしまいがちです。
しかし、あらゆるノウハウ本を読んで実践してきたからこそ言います。
執筆スタイルに「これが正しい」「これが正解」なんて、ありません!
ある人にとっては最適解でも、また別の人にとっては合わないものなんて無数にあります。
他ができていることをできないから、自分がダメなんてことは、絶対に思わないでくださいね。
Mサイズの体型の人にSサイズのTシャツを渡してもパツパツになって窮屈なように。
左利きの人に右利き用のハサミが使いにくいように。
執筆者の数だけ、執筆スタイルはあります。
大切なのは、自分が長く創作を続けられるように、楽で楽しい方法を見つけることです。
私の失敗談と得られた気付き
そもそも、「プロット」ってどういう形だとイメージされますか?
私は創作を始めた当初、A4用紙2~3枚分にびっしり書かれた物語全体の構想だと思っていました。人によっては、キャラクター一人一人に履歴書みたいな項目を作って詳細に設定を練る場合もあります。
とりあえず、やってみることにしました。
起承転結に構成を分け、それぞれのエピソードの要点を書き出し、絶対入れたいセリフをメモし、主要キャラクターの詳細なプロフィール帳を作り、違和感や矛盾のある展開を書き直し――完成したプロットを見て……
「物語はもうできたし、書かなくてもいいや!」
と燃え尽きました。ある意味では、やりきった感。
自分で言うのもなんですが、プロットの完成度が高すぎてどんな物語になるのか全て分かってしまい、小説を書く前に達成感を得てしまったのです。
あの時間はなんだったんだと少し打ちひしがれましたが、「私、プロット作るの向いてないんじゃないか?」と、一つの気付きを得ることができました。
そこで、作家さんのインタビューが載っている雑誌やネット記事を色々と探して読み、プロットと一言で言っても実にさまざまな形式があることを知りました。
特に、こちらのまとめサイトに掲載されている多くのプロ作家さんの(作らない派含めた)プロット形態は読んでいるだけで面白いので、ぜひ!
上述のように詳細なプロットを練るという方から、大事な一文だけ書き出す方、起承転結の「起」と「結」だけ考えてあとは書きながら考える方、作中舞台となる部屋の見取り図や地図といった「絵」だけの方、プロットを書かずに取りかかる猛者などなど。
さまざまなプロットの形を見て思ったのは、「プロットにこれという正解はないし、なんなら無くても書けるんだ」ということでした。
プロットとは、自分が小説を書くために見失ってはいけないもの・忘れてはいけないものを書き出す地図やおつかいメモみたいなものかなと考えています。
必要なものさえ書き忘れなければ、書いている途中で書きたいものを増やしたり、横道に逸れたりしても良いのだと。
執筆者を2つのタイプで分ける
プロットを作り込んで失敗した経験から、私は「完成された構想があると飽きるタイプ」と自分のことを分析してみました。
ご存じの方もいらっしゃるかと思いますが、執筆者には大きく分けて2つのタイプがあります。
「プロッタータイプ(アウトライン派)」と「パンツァータイプ(非アウトライン派)」です。
簡単に説明しますと、こうです。
プロッタータイプ(アウトライン派):構想を練ってから小説を書く、プロットをある程度作り込んでから書き始めるタイプ。
パンツァータイプ(非アウトライン派):実際に物語を書きながら流れを考えていくタイプ、プロットを作り込まない。
※パンツァーとは「計画を立てず、勘を頼りに作業する=SEAT OF PANTS」という成句からきています。
小説講座の書籍では、プロッターを前提として書かれたものが多いです。
学校の授業のように、定義や法則に沿って教えやすいからだと思います。
パンツァーは執筆者それぞれの感覚頼りなので、「こうやってやる」と教えにくいのでしょう。
ただ、ここでまず大切なのは、自分がプロッターなのかパンツァーなのかを知っておくということです。
それだけでも、執筆スタイルは決めやすく、執筆作業はぐっと楽になります。
色々なノウハウを知っても、「あ、これはプロッタータイプの人向けっぽいから、私には向かないかもな」と判断できます。やってみて合わなくても「まあ、分かってたこと」と、次に気持ちを切り替えられます。
プロッタータイプが楽に感じやすい執筆スタイル
・世界観、キャラクター、ストーリーなど、自分が特に重点を置くものから作り込んでいく
・作中の背景や情景を自分が具体的にイメージできるようになっておく(舞台周辺の地図、部屋の間取り)→情景描写が書きやすくなる
・作中の各エピソードはバラバラに書き出さずに、ストーリー順に並べておくと初稿がスムーズになる
・話を膨らませにくい場合は、動かしやすいキャラクターを選び、キャラクター像を具体的に掘り下げて設定すると、派生のエピソードが生まれやすい
※プロッタータイプは、骨組みができてしまえば初稿を完成しやすい反面、その骨組みともいえるプロットを作るのに時間を要します。
「構想を練るのに時間がかかる」「設定やアイデアは浮かぶがストーリーへの落とし込みが大変」といったように、プロット作成中に悩みが生まれやすいようです。
この場合は、まず執筆者から読者目線へと頭を切り替えてみてください。
自分が本を読むときに、どういうお話に引き込まれやすいですか?
独特な世界観、魅力的なキャラクター、面白い設定など、特に良かったと感じたポイントがあるかと思います。
自分が興味を引かれるポイントを起点にして枝葉を広げていくと、ストーリーが浮かびやすいです。
(例)魅力的なキャラクターが大事だと思う場合
・メインに動かしたいキャラクター像を練る→キャラクターの魅力、才能、長所短所、生い立ち、好きなもの嫌いなものなど具体的な設定を書き出していく。
・身近なキャラクターを作る→主要キャラの長所を生かすキャラ、短所を補うキャラなど、中心を決めておくと他のキャラクターも決めやすい。
・主要キャラをどう動かしたいか考える→才能を発揮させる話が書きたい
⇒どういった場所(学校や職場など)が一番キャラクターの才能を発揮させやすいか→作中の舞台が決まる
⇒元々才能はあるのか、後から開花するのか→ストーリーの冒頭が決まる
プロッタータイプにおすすめの本については、こちらの記事でも紹介しております。ご参考までに。
私自身、長編や連載を書くときはプロッター寄りの方法を実践しますが、基本はパンツァー思考ですので、パンツァータイプが楽な執筆スタイルを確立しています。
全員に当てはまるものではないですが、パンツァータイプの執筆時の楽しさは「書きながら考える(構想する)」ことなので、できあがった物語を文章化することは面倒に感じがちです。
数々の創作論の中では「書けなくなった時はしっかり構成を練らないとダメ」といった意見を目にすることがあります。これは、プロッタータイプが行き詰ったときには効果的ですが、パンツァータイプにはあまり向かない方法です。
感覚派、あるいは感性で書いていくタイプに理論を押し込むと、かえって感覚が乱れて筆が乗らなくなるからです。
例えるなら、地図を見ず思うように歩きながら見知らぬ土地を楽しみたい人に、細かい行程表と地図を渡して、この通りに進め! と言っているようなものです。
プロットをちゃんと作ったけど書いている途中で飽きてしまう……という方は、もしかするとパンツァーの傾向があるかもしれません。
パンツァータイプが楽に感じやすい執筆スタイル
・プロットを作り込みすぎず、忘れてはいけない設定や重要な要素のみを書き出しておく
・具体的な展開は書きながら考えていく(プロットの段階からストーリーを作り込みすぎない)
・考える速度に合わせて書くほうが、飽きずに完成まで持っていきやすい
・多少の誤字脱字や描写不足は気にせず、まずは大枠のストーリーを完成させることを目指す
・粗さが残っているので、推敲は丁寧に行う
※モチベーションを保ったままのほうが初稿を完成させやすいため、自分のモチベーションが維持できる期間の目安を知っておくと良いでしょう。
短編は完成しやすいですが、中・長編の場合は途中で息切れする可能性もあるため、大まかに執筆スケジュールを組むのがお奨めです。
(例)集中して執筆できるのは週末、モチベーションの維持は半年が限界という場合
・ざっくりとした構成を書き出す。
A→B→C→Dという展開、起承転結に沿う。
・目指している文字数を出し、各場面(章)に振り分ける。
全体で10万文字以上が目標。
A(2万)B(3万)C(3~4万)D(1~2万)
・大まかなスケジュールを決める。
1ヶ月の間にAを書ききる。B~Cが一番ボリュームがあるので、4ヵ月目までに終わることが目標。Dは具体的なオチを決めているので、2週間で書けそう。
といった感じです。
上記は初稿のスケジュールですので、推敲は含んでいません。
初稿の完成度について
人はどうしても、ずっと同じ熱量は維持できません。
書き手の誰しもそうですが、特にパンツァータイプはモチベーションがなくなると同時に執筆の意欲が薄れる傾向にあります。
そのため、「創作意欲がある内に骨組みを書き終える」ことが必要になってきます。
プロットをざっくりと練った後は、すぐに初稿を書き終えるのがお奨めです。
この場合、プロッタータイプの初稿に比べると粗削りに見えるかもしれませんが、気にする必要はありません。まずは、最初から最後までストーリーを書き終えることを目標としてみてください。
あとは読み返しながら、描写が足りない部分など加筆していき、誤字脱字を修正していくと良いでしょう。
プロッタータイプは、プロットを細かく作り込む傾向にあるため、プロット完成の段階でストーリーの全容は完成していることが多いです。
プロットが骨組み、初稿が肉付けといったイメージです。
初稿の段階で描写に意識を向けながら書く余裕があるため、推敲は文章のリズムや誤字脱字を中心に見直すと良いでしょう。
パンツァータイプは、プロットを作り込まないほうが意欲的に原稿に向き合えるため、初稿がある意味で「骨組み」を作る工程です。
「骨組み」と「肉付け」を初稿で同時にしようとすれば、よほどの速筆でない限り、途中でモチベーションが保てなくなります。
肉付けの作業(推敲)では、モチベーションより集中力の度合いによって完成度が左右されます。よって、初稿に取りかかるときのような高いモチベーションがなくても大丈夫です。集中できるときに落ち着いて作品を読み返し、自分が目指す完成までもっていきましょう。
ですが骨組みの作業(初稿)では、どうしてもモチベーションが必要になるので、モチベーション維持期間中に初稿全体を書き上げることを目指すのがお奨めです。
おわりに
今回は、自分の執筆スタイルがプロッターなのかパンツァーなのかを分析することが主題でしたので、プロットの傾向から自分のタイプを探っていくお話をさせていただきました。
完全にどちらかのタイプに寄っているという場合もあれば、作品文字数によって変わったり、複合タイプの場合もあります。そのつど、「今は考えながら手を動かせるから、プロットに時間をかけるより初稿を早く仕上げよう」とか「構成が作れていないと書けそうにないから、今回はプロットを丁寧に作ってみよう」とかいったように、状況に応じて楽になれる執筆スタイルを模索してみてください。
こちらの記事では、描写力のポイントについて語っています。